トロッコ動物病院のガーデンではバラの開花が終わり、さながら「祭りの後」ともいえる静けさです。
一方、睡蓮鉢では温帯スイレン ‘Hollandia’ が開花しました。
この温帯スイレンは19世紀フランスの印象派の画家クロード・モネが書き続けた植物としても有名です。
※ほかに「温帯性スイレン」「耐寒性スイレン」などの呼称がありますが、今回は温帯スイレンで統一します
熱帯圏に分布する熱帯スイレンは古代エジプトの時代から珍重されてきた歴史がありますが、
温帯圏に分布する温帯スイレンは、まさにモネが生きた19世紀フランスで品種改良がすすみました。
パリ万博(1867年)で温帯スイレンに出会ったモネはこの植物に夢中になり、のちにパリ西部のジヴェルニーに移住してガーデニングとそれをモチーフにした創作に没頭します。
当時、モネは「青い睡蓮」が欲しいと夢見ていたのですが、叶いませんでした。
それは当時のフランスでは育てられなかった熱帯圏の「熱帯スイレン」のことだったといわれています。
今ではこの熱帯スイレンは広く流通し、私たちも手軽に栽培することができます。
かの巨匠が焦がれたものを手軽に楽しめるというのは、なにか感慨深いものがありますね。
(下の写真は当院で開花した青い熱帯スイレン)
さて、スイレン(睡蓮)とハス(蓮)は両方とも美しい花を咲かせる水生植物ですし、
なにより名前も似ていますので間違われることも多いようです。
英語でも睡蓮は「Water Lily」、蓮は「Lotus」なのですが、ネット上でも混同されています。
下に両者の違いを表にしてみました(院長画)。
睡蓮はスイレン科スイレン属、蓮はハス科ハス属で、実はまったく別の植物なのです。
歴史を紐解いてみても、それぞれの植物が別々の地域で人々の生活や信仰と結びついてきたことがわかります。
冒頭に書いたように、温帯スイレンはフランスの画家モネが夢中になった種類であり、
熱帯スイレンは古代エジプトにおいて「太陽の象徴」「再生の象徴」とされて珍重されました。
対してハスは東南アジアから東アジアに自生していることから仏教とのつながりが深く、
「極楽浄土の花」として仏教絵画に登場します。
なにより蓮根(レンコン)は私たち日本人には欠かせない食材ですね。
(しかしレンコンを一般的に食べるのは世界でも日本と中国だけなんですね)
下の写真は今年の4月に、私がレンコン(蓮根)を植え付けた際の写真です。
「レンコンを植える」というのは、それを食べ物としか認識していないと可笑しな気がしますね(笑)
夏真っ盛りに神秘的な蓮花を咲かせてくれることを楽しみにしています。
温暖化といわれて久しいですが、
夏に強い睡蓮や蓮は、他の植物がバテる頃に
私たちに癒しを与えてくれる貴重な存在です。