トロッコ動物病院では今年もバラの開花が始まりました。
(今年は梅雨入りが早いので、残念ながら雨に打たれてしまいますね)
さて今回ご紹介するのは日本に自生する原種のバラ「ノイバラ」です。
一輪の花には園芸品種のような艶やかさはありませんが、白い小さな花がひと房に群がるように咲き見事です(こういうタイプを‘小輪多花性’と呼びます)。
当時、西洋にはこのような多花性のバラが無かったことから、19世紀初頭にヨーロッパにわたって現在流通している「園芸品種」バラの祖先になりました。
つまり現在「一面に咲き誇るバラ」が持つ多花性の源流は、このノイバラにあると言っても過言ではないでしょう(それまでヨーロッパに存在したバラは、野生種も園芸種もぽつぽつと咲くタイプが多かったようです)。
また5枚の花弁(はなびら)が原種のバラ、ひいてはバラ科の花の特徴です。
これは学ランのボタンと同じデザインですよね、そうです桜(ほかにはイチゴ)もバラ科ですので同じなのです。
ノイバラを初めて見るスタッフが「あれもバラですか?」と聞き、私が「あれこそが日本の誇るバラだよ。ばら園に行かなくても身近にバラはあるんだよ!」と力説するのが例年のパターンです。
バラ研究で有名な大場秀章(東大名誉教授)は「日本はバラの宝庫」と表現しますが、これは栽培されているガーデンのバラのことではなく、原種のバラが十数種も自生する日本の豊かな自然の事を言っています。
かの小林一茶も「古里は西も東も茨(ばら)の花」とうたっているように、バラは昔から日本人の身近に咲く花だったようですね。
病院から少し山手に歩くと、トロッコ動物病院の由来となったトロッコ線※の始点である野底山があります。
これは4月に私が歩いた時の写真なのでまだ開花していませんでしたが、びっちりと斜面にノイバラが枝を伸ばして自生して蕾を上げていました。
※病院横のトロッコ線は野底山から麓の伊那上郷駅に木材を運ぶ道でした。
また、同じ飯田市でも矢筈トンネルを通って山一つ越えた「秋葉街道」沿いを歩いて原種バラを探索すると、ノイバラ以外の原種(ミヤコイバラあるいはアズマイバラ)が観察できます。
ちなみにノイバラと近縁種の鑑別には葉の付け根の托葉の形状が重要です。
左のノイバラはノコギリ状、ミヤコイバラやアズマイバラはつるりとしています。
ここ秋葉街道は、その真下に日本最大の断層である中央構造線が走っています(大鹿村の中央構造線は国の天然記念物に指定されていますね)。日本の原種のバラ達は中央構造線を境にして分布が異なるといわれていますので、この秋葉街道は種々の原種バラが分布しているのかもしれません。
また飯田ではみかけませんが、海岸線にはノイバラと並んで有名な「テリハノイバラ」がみられます。私は2011年3月11日、愛知県の海岸でテリハノイバラを観察していました。海岸から戻り、震災の報を知った衝撃はこのテリハノイバラとともに私の記憶に強く刻まれています。
さてこれ以上バラの原種と交配の歴史を語り始めるとマニアックになってしまい誰も読まないと思いますので、この辺で筆をおこうと思います(笑)