トロッコ動物病院

症例紹介:僧帽弁逆流症~当院における心エコー検査~

僧帽弁逆流症(Mitral Regurgitation:MR)は、犬で最も多く発生する心臓病です。

※猫では弁膜症はまれですが、僧帽弁逆流は肥大型心筋症(HCM)から二次的に発生します。

 

ですので私たち臨床獣医師が最もよく遭遇する心臓病の一つと言ってもよいでしょう。

 

また、僧帽弁逆流によって発生する心雑音容易に聴取できることから、

聴診などの身体検査によって発見されやすい病気です。

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そのため一昔前まで、単に聴診をしただけで
『この子、心臓が悪いね』
と診断されて薬が出ていたという時代もあります。

 

しかし2009年にアメリカのACVIMという学会から治療ガイドラインが発表されたことで、

「診断時点で重症度をきちんと把握して、治療方針をきめる」

ことが重要だと考えられるようになっています。

 

そのための検査として、

・胸部レントゲン検査

・心電図検査

・心エコー(超音波)検査  などが重要なのですが、

今日はこの中でも『心エコー(超音波)検査』について少しお話ししたいと思います。

超音波検査

飼主さんがリアルタイムに見られることもエコー検査の利点です

 

 

 

①カラードプラ検査

 

超音波の画面上に血流表示を行う方法です。

近づく血流:

遠ざかる血流:

乱流:黄色    ・・・に色分けされて表されます。

RACCHI1

MRの症例:逆流ジェットが緑~黄色に描出されています


僧帽弁の逸脱部位
(きちんと閉まっていない場所)から吹きだす逆流ジェットを観察します。

上のエコー写真は僧帽弁逆流症を発症したキャバリア・キングチャールズスパニエルです。

僧帽弁(赤矢印)から下方向(左心房)に向かう逆流ジェットがお分かりになると思います。

 

  

 

②左室内径短縮率(%FS)

 

左心室の収縮機能を調べる検査です。

FS 文字

正常犬(ラブラドール)

 

FS

僧帽弁逆流症における過剰収縮

 

 僧帽弁逆流症では、左心室が過剰運動をするようになります。

このため逆流の増加にともなって、この左室内径短縮率は上昇します。

心電図の波形を目安にして測定位置を決めるため、正確な測定の為に心電計の装着が重要です

 

(なんとなく「収縮力が高い方が良いじゃないか」とイメージされるかもしれませんが、病気によっては必ずしもそうではないんです)

 

 

③僧帽弁逆流速度の測定(Vmax法)


僧帽弁逆流症では僧帽弁がしっかりと閉まらないことによって、

正常な心臓ではあり得ない高速血流が僧帽弁領域で検出されます。

この高速血流の速度を測定することで僧帽弁逆流症の診断と重症度評価を行います。

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正常犬における血流測定

 

CW

僧帽弁逆流症の患者にみとめられた異常血流

 

 

④左心房/大動脈径比(LA/AO比)

 

左心房の拡張を調べる方法です。

laao 文字大

正常犬では大動脈と左心房の径はほぼ同じです

 

僧帽弁逆流症では逆流ジェットを受ける左心房が拡張してしまうため、

このLA/AO比を測定することで僧帽弁逆流症の重症度が分かります。

 

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今回はエコー検査の写真ばかりだったので、少しわかりにくかったかもしれません。

しかし私たち獣医師が、どうやって心臓病の評価をしているのかを少しでも知っていただければ幸いです。

 

今はインターネットも普及し、飼い主さんも容易に病気の情報を集められる時代になりました。

と同時に、私たち獣医師側も飼い主さんにしっかりとした病態説明を行うことが求められています。

 

今回ご説明したような心エコー図検査などの客観的なデータを踏まえながら、

獣医師と飼い主さんが情報を共有して治療を進めていくことが大切ですね。