トロッコ動物病院

症例紹介:蛋白漏出性腸症~消化管型リンパ腫と腸リンパ管拡張症~

下痢や嘔吐といった消化器症状は、動物病院に来院する原因として最も多いもののひとつです。

 

もちろん軽症のものも多く、また「異物誤食」「寄生虫感染」のように

原因の除去によって完治するものもあります。

 

しかしその一方で近年、一般的な胃腸炎治療に反応しない慢性の消化器症状を示す症例

(慢性腸症:CE)が多く報告されるようになりました。

 

このCEのひとつに『蛋白漏出性腸症』と呼ばれる疾患群があります。

蛋白漏出性腸症はアルブミンなどの血漿蛋白が消化管に漏れ出ることにより、

低蛋白・低アルブミン血症を発症します。

当院では、腹水が貯留してから来院するケースも少なくありません。

 

今回は蛋白漏出性腸症を示す疾患に焦点を当てて、その中でも、

『消化管型リンパ腫』『腸リンパ管拡張症』について触れてみたいと思います。

 

 

①消化管型リンパ腫

リンパ腫は最も多く発生する犬の造血器腫瘍ですが、

一般的に全身のリンパ節が腫れる「多中心型」が多くみられます。

 

今回ご紹介するのは「消化管型」といわれるタイプです。

消化管型リンパ腫は、犬猫ともに最も多く発生する消化管腫瘍のひとつです。

※消化管に発生する腫瘍は、他に腺癌・平滑筋肉腫・消化管間質腫瘍(GIST)・肥満細胞腫などがあります

 

下の画像は、私が担当させていただいた7歳のペキニーズです。

慢性的な下痢・体重減少という症状で来院され、

血液検査では低アルブミン血症をみとめました。

消化管型リンパ腫

この症例では、腸壁の層構造が消失した腸管をみとめました。低エコー領域(黒い部分)が腸管の肥厚部位です。

 このケースでは超音波ガイド下生検という方法で診断しました。

他の腫瘍であれば外科的摘出が選択されるのですが、リンパ腫においては化学療法(抗がん剤)が実施されます。

ただし、一般的なリンパ腫が化学療法によく反応するのに対して、

この消化管型リンパ腫は反応が悪いため注意が必要です。

だからこそ早期の発見が非常に重要であり、

慢性腸疾患を放置せずきちんとした検査を行うことが大切なのです。

消化管型リンパ腫2

細針生検(FNB)による細胞診から、
消化管型リンパ腫と判明しました。

 

また、においてはFeLV(猫白血病ウイルス)に感染している場合に、

消化管を含めた全身に、若齢でリンパ腫が発生しやすい事が知られています。

 

 

②腸リンパ管拡張症(IL)

 次にご紹介するのが、腸リンパ系の病気である腸リンパ管拡張症(IL)です。

「リンパ」という単語が付きますが、上の消化管型リンパ腫とは異なり腫瘍ではありません

腸のリンパ管の異常により、蛋白質が吸収されずに喪失してしまう病気です。

犬種としては、ヨークシャー・テリアに多いと報告されていますが、

私自身は様々な犬種で経験しています。

 

下の画像は、リンパ管拡張症を疑ったシェルティーのわんちゃんです。

慢性下痢を訴えて来院し、検査で著しい低アルブミン血症と腹水をみとめました。

あいうえお

この症例は超音波検査において、
小腸の粘膜層に線状のリンパ管拡張所見をみとめました。

 治療としては、薬剤治療の他に低脂肪食が非常に重要な役割を果たします。

これは、食物中の脂肪がリンパ管に負担をかけて蛋白の喪失を悪化させてしまうためです。

腸リンパ管拡張症は低脂肪食や薬剤治療によく反応する(治りやすい)ことが多いため、

きちんと診断して、適切に治療することが大切な病気です。

 

 

 以上、蛋白漏出性腸疾患を起こす消化器疾患を2つご紹介しました。

たかが下痢、されど下痢です。

発症当初から『なんでも検査』とまでは必要ありませんが、

消化器症状が長引く場合は放置せずに、かかりつけの動物病院に相談して下さいね。