トロッコ動物病院

症例紹介:犬の脳腫瘍とMRI

今回のテーマをご覧になって「犬にも脳腫瘍があるの?」と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか?

あるいは現在、愛犬が脳神経疾患を患っておられる方もいらっしゃるかもしれません。

 

実際には、犬の脳腫瘍の発生は決して少なくはありません。しかしながら、人間よりも断層撮影(CTおよびMRI)実施率が低いため、発生していても診断率が低いのは事実でしょう。

 

頭蓋内という「硬いケース」の中で発生した腫瘍は、たとえ良性であっても周囲の脳が圧迫されることにより障害を起こします。また、悪性であれば腫瘍は浸潤性増殖により、さらに強い障害が予想されます。

 

今回は、私が担当させていただいた脳腫瘍の症例をご紹介する中で、犬の脳腫瘍の診断がどのようなものかを少しでも知っていただけたらと思います。

 

下の画像は、診断時まだ4歳という若い年齢だった脳腫瘍のトイ・プードルの症例です。
MRI所見から脳腫瘍のひとつ「神経膠腫(グリオーマ)」と診断されました。

 

FLAIR サジタル 脳脊髄液でない!2

MRI FLAIR画像 前頭葉の広範囲に等~高信号の領域が存在し、大脳を圧迫しています。

 

T2 アキシャル 炎症・浮腫

MRI T2強調画像 Midline Shift(正中線の変位)を伴った高信号領域が大脳右側を圧迫しています。

 

上のトイ・プードルのわんちゃんは、当初「どこかを痛がるような鳴き声」をあげるようになり来院されました。
その後、全身性の痙攣発作を起こすようになったため、まずは対症療法として抗てんかん薬の投与を開始しました。

 

しかし治療への反応が思わしくなく、また症状の進行が急激だったことから、二次診療施設にてMRIを撮像する事となりました。

その結果、前述した「神経膠腫(グリオーマ)」と診断されました。

※神経膠腫は、星状膠細胞腫や希突起膠細胞腫・膠芽腫などの、グリア細胞に由来する腫瘍を包括した名称で、犬では髄膜腫に次いで2番目に多い脳腫瘍です。

 

脳腫瘍の症状は「てんかん発作」が多く認められます
また犬には「特発性てんかん」といって、原因不明のてんかんも存在します(通常は『てんかん』というとこちらを指します)。

 

よく一般的に、『6歳未満での発症なら特発性てんかん、6歳以降なら脳腫瘍などを疑いCT・MRIを行う』などと言われますが、このトイ・プードルの子が4歳であったように、犬の脳腫瘍の中には若くして発症するものも珍しくありません。

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その証拠ともいえる論文が今年(2015年)発表されました。

Epidepsy in dogs five years of age and older: 99cases(2006-2011).Ghormley TM et al.
J Am Vet Med Assoc, 246(4): 447-450, Feb, 2015.

てんかんを持つ犬を99症例集めた研究で、5~7歳の若いグループと14歳以上の老犬のグループを比較したところ、
「特発性てんかんと二次性てんかんの比率は差が無かった」
ことが分かりました。
つまり、若齢でも頭蓋内病変を持っている可能性は高いのです。

 

犬の脳腫瘍には放射線治療が有用なものが多く、生存期間が延長することも証明されています。可能であれば早期の段階でCT・MRIによって診断をすることが大切です。
毎回同じ事を書いていますが、どのような疾患も早期発見・早期治療開始が肝心です。
特に言葉を話さない動物達の病気は、どうしても末期になって病院に連れてくることになるのが実際です。どうか、皆さんの愛犬・愛猫に異常を見つけた場合は、早めにかかりつけの先生に相談してあげてくださいね。

※CT・MRIは、当院からの紹介によって二次診療施設で実施することになります。