トロッコ動物病院

症例紹介:猫の風邪を放置しないで~角膜黒色壊死症について~

 徐々に寒さを感じるようになり、ここ信州・飯田では上着無しでは外出できない気候になってきました。

さて気温が低下すると発生する病気は数多くありますが、今回は「猫の風邪」と呼ばれる猫の上部気道感染症と、その合併症である角膜黒色壊死症について書こうと思います。

猫の上部気道感染症(Feline upper respiratory infectious disease)は、ウイルス・細菌・クラミジアといった数種類の病原体が発症に関与しています。特に(半)室外飼育・多頭飼育などストレスを受ける環境の猫において感染・発症リスクが高いと言われています。

中でも、猫ヘルペスウイルス(FHV-1)および猫カリシウイルス(FCV)が2大原因です。
それぞれのウイルスの特徴をまとめてみましたので、下に記載します。

表

両ウイルスの症状の比較

この表で比較したように、「猫の風邪」は「ヒトの風邪」と似た症状も多いのは事実です。しかしながら、近年では全身症状(発熱・黄疸)を引き起こして高い致死率を示す強毒株も報告されているため注意が必要です(強毒全身性猫カリシウイルス;VC-FCV)。

 

上の表にあるように、猫ヘルペスウイルスは角膜炎を起こすのですが、さらに重篤な症状を引き起こすことも珍しくはありません。

それが本日紹介させていただく角膜黒色壊死症です。

 下の写真は以前担当させていただいた猫ちゃんの左眼で、角膜黒色壊死症を発症しています

角膜壊死症

角膜黒色壊死症

 角膜の中央部に象徴的な黒色の痂皮(カサブタ)が付着しているのが分かると思います。
この領域は、角膜実質が壊死辺となり周囲から分離してしまっているため、このような外観となります。
眼の表面(角膜表面)にまるでかぶさっているように見えることが多いです。

 

過去の文献的には、ペルシャ・シャムなどの猫種で発生が多いとされていますが、どのような猫種でも発生の危険性はあります。
(私の経験ではヒマラヤンなどのペルシャ交配種から、これらの猫種とは遠縁のはずのブリティッシュ・ショートヘア、はたまた雑種猫など様々な品種で経験しています。)

 

猫ヘルペスウイルス・猫カリシウイルスともにワクチンの接種が有効な発症対策です。
予防できる病気は予防してあげることが飼い主さんの愛情だと思います。
※ただし、あくまでワクチンは発症予防であり、感染予防ではありません。接種後も感染対策・体調管理はきちんと行ってくださいね。

 

また角膜黒色壊死症は早めの処置が肝心です。
どうか皆さんの猫ちゃんが表にあるような症状をみせているようでしたら、

「どうせ、風邪だろう」

と侮らず、早めに病院を受診してくださいね!