ヒトでの唾液腺の病気といえば「おたふく風邪(流行性耳下腺炎)」が有名ではないでしょうか?
もちろん動物にも唾液腺の病気があります。
今回はその中でも私達が診察させていただくことが多い唾液腺粘液瘤について紹介させていただきます。
「唾」の訓読み「つば」は、「つばを吐く」に代表されるように良い意味で使われないこともありますね。
しかし唾液は私たちが生きる上で、本当に大切な役割を果たしています。
唾液の作用には以下のような重要な働きがあります。
①酵素によって食物を消化する
②飲み込みをスムーズにする
③抗菌作用により外敵から体を守る
④歯を修復する
※本当はもっとあります!
実は、今回紹介する下顎腺の病気よりも、そのすぐ隣に位置する『下顎リンパ節』が腫れて来院するケースの方が多いのですが(多中心性リンパ腫など)、このリンパ腫についてはまた別の機会に書こうと思います。
下のイラストはヒトと犬における、主要な唾液腺の場所と名称です(写真:当院スタッフ犬)。
ヒトの「顎下腺」に相当するものが、犬では「下顎腺」と名前を変えていることが面白いですね。
(ヒト以外の動物ではすべて下顎腺と呼ぶようです、四足歩行と二足歩行の違いでしょうか。)
◆唾液腺粘液瘤だえきせんねんえきりゅう
Salivary mucocele
ダメージを受けた唾液腺から唾液が漏れ出し、皮下組織に貯留する病気です。
唾液は消化液ですので、漏れた場所で炎症を起こして病気を悪化させてしまうのです。
症例を紹介させていただきます。
右の顎が腫れてきたとのことで来院された、ミニチュア・ダックスフンドの子です。
※唾液腺粘液瘤は全犬種で発生しますが、ミニチュア・ダックスフンド、プードル、ジャーマンシェパードで特に多いとされています。
当初、飼い主さんはインターネットで調べられて「リンパ腫という病気ではないか」と心配されていました。
しかし触診させていただくと波動感(液体の貯留を意味します)があり、
確認のための検査を実施した結果、唾液腺粘液瘤であることがわかりました。
粘液瘤は稀に内科治療で治ることがあるものの、基本的には外科治療が適用になります。
まずは障害を受けた唾液腺の切除を実施します。
この後、粘液瘤を切開して排液します。
その際にペンローズドレーンという管を設置して、手術後も排液できる排水口を作ります。
(ペンローズドレーンは手術後数日で除去します)
唾液腺の手術では大切な血管や神経が近くを走っているため、これらを保存しながら摘出することに注意して実施しています。
犬の頸部が腫れる原因には、今回紹介させていただいた唾液腺やリンパ節、さらには甲状腺の病気が存在します。
どの病気も早期の診断が非常に重要ですので、普段から愛犬の頸部を触る習慣をつけていただき、
異常があれば早めにかかりつけの先生を受診してあげてくださいね。